ズートホーン00のこれからどうスラッヂ

「これからどうする?」の土佐弁「これからどうすらぁ?」とMy Favoriteロックンロールバンド「ザ★スラッヂ」をかけて、一時どこかで流行った言葉。そんな、将来への不安をこじらせたような物言いをいまも引きずる、たっすい(頼りない)ブログ。

『FSM雑感』(文・D小川)

伝説のバンドザ☆スラッヂは80年代末に活動を休止した。長い長い休息の後、リーダーであるスガワラ氏は07年末に音楽活動を再開したのだった。ギターの片岡理氏が逝去していたため、ザ☆スラッヂの再結成とはならずその衣鉢を継ぐAfter The Sludgeによる再開であった。そして誰もがその路線をまい進するかと思ったのだが実はアンダーグラウンドの若き重鎮たち#1とのユニットを同時に結成していたのだった。
(#1トランス~SSEの末裔であるフジイ氏とカルトロック系の名ブログで名を馳せたモリモト氏)

その名もFree Sex Mania。(ひどいバンド名・・・)

トリックスターであるスガワラ氏の面目躍如ではあったが、その後の展開はある意味疑問視されていたところがあったと思う。その時点でスガワラ氏のギターが未知数だったからだ。

しかしこのバンドはこのあと誰も予測しなかった次元に到達することになる。

まず歴史の継承という意味で、片岡氏の「寒いおでん」やスラッヂの「夜光少年」「お花が大好き」といった曲をカバー。断続的な活動であったATSの受け皿的な役割をはたしていったがその後オリジナル中心に移行。一年経過したころにはメンバー間の息も合うようになり、09年の2月22日にはそれまでの集大成といえる名ライヴを神楽坂EXPLOSIONでおこなったのだった。このライヴは個人的にも思い出深い。同日の九段下会館のあがた森魚とどちらにいくか最後まで迷いに迷い、こちらを選んだ経緯があったからだ。(この時のあがた森魚のコンサートは後に三枚組でCD化されている)

しかしその期待にFSMは大いに応えてくれた。「ギター、ベース、ドラムが同時に前面に出てきてしかも全員がジミヘンドリックスになる」という前代未聞のコンセプトのすごいライヴを展開してくれたのだ。特に凄かったのが「ズートB」で、たった三人で星が散らばるようなキラキラした空間をつくりあげたことを今なお思い出される。


この後ミルクブッシュのササキ氏をギターに加え何回かライヴをこなした後、森本氏の活動休止に伴いスガワラ氏はATSに没入していく。(余談だが8月に実現した三人スラッヂも実によかった。スガワラ氏の最盛期は今現在だと素直に思ったものだ) その後FSMは宴会(笑)などに単発的に出演したが活動は本格化せず。今年ATSが活動休止に入るのに伴い継続的にライヴを敢行するようになった。

しかしこれがすごいのである。

今回はササキ氏に頼らずオリジナルの三人で再出発。今まで三回のライヴを各所でおこなっているが、そのどれもがすごいことになっている。観客がライヴ終了後「最高(サイコ?)だよ!」と興奮したり、フジイ氏が今回は前回の千倍よかったとツイートしたり、共演したミュージシャンが自分たちのライヴ直前に「Free Sex Mania面白かったね」とつぶやいたり・・・。あまり日常的には見られない光景が現出しているのだ。これは何を意味するのだろうか・・・。

最近のFSMのライヴのパターンは決まっている。最初はギターのミスが目立つ。わざとやっているのか、それとも素なのか・・・。メンバーもお互いを探り合っているようでただならぬ緊張感がじわじわ沸いてくる。下手するとセッティングの段階でトラブってたりして、観客は期待と不安が入り混じりもう身を任せるしかなくなる。そしてここからが本領発揮だ。何をやるかわからぬスガワラ氏のギター。曲を成り立たせグルーヴをうねらせるフジイ氏のベース。(ギターが一瞬鳴り止みベースだけになると音楽的だと感じるほどだ!) テンションを高めつつ大団円を演出するモリモト氏のドラム。これらが渾然一体となり、ディザスターとなってライヴは終焉する。この瞬間自分は恐竜が目の前にいるような錯覚に陥るため、「ダイナソーが出現した」などと表現しています。

では他のバンドとどう違うか?ATSと比較してみよう。現在のATSはヤマジ氏のギターが中心となり基本的に片岡氏時代の楽曲の「強度」を高めるアレンジになっている。在りし日のスラッヂを想起させるステージングは確かに唯一無二だが、スガワラ氏の自由度を上げ解放しきるシステムを選択してはいない、と感じる。


それに比しFSMではスガワラ氏は野放し状態で(失礼)、強度どころか楽曲そのものの成立の危機すら感じられる場面が多発する。しかしそこでこのバンド特有のマジックが生じるのだ。ミスをする、タイミングが合わない、どこまでいっても終わらない・・・。そういった負の状況をスガワラ氏が作り出しそしてバンド全体でリカバーする。そのリカバリーの速度感とうまくいったときのカタルシスがこのバンドの旨味の正体だ!

残念ながら現場にいないとその醍醐味は味わえない(いつもの語彙ではあるが)。今年のファーストライヴを収録したCD-R「夏の川」を聞いても、何か凄いことが起こっていることは理解できるがあの実感にはかなわない。逆にいくら身構えて「その手に引っかからない」と思っても全く無駄で、その場にいる限りはFSMの特異性にやられてしまうのだ。そしてライヴ終了後物販コーナーに並んでしまう・・・。

最後にメンバーの重要性についても言及したい。テクニックがあれば誰でもいいという訳でなく、ある領域の知性が必要だ。ある意味反則を繰り返すスガワラ氏に冷静に対応し、一瞬一瞬なすべきことをなす本物のミュージシャンシップが要求される。こんなことやってられんなどとは思わない・・・。そんなフレキシブルなミュージシャンがそうそういるわけも無く、そう考えると代替はまったく利かないのだ。

ロックの天才スガワラ氏。
バンマスフジイ氏。 (この人は将来のアンダーグラウンドの帝王ですね)
そしてKEYとなるモリモト氏。

自分の唯一の懸念はモリモト氏の腰痛だけである。皆さん体に気をつけてほしい。万難を排して見に行くので・・・。


(2012年8月27日脱稿)

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(※D小川さんの快諾を得まして一部で話題をさらった“FSM論文”をここで掲載させていただきました。ありがとございます!これをはじめて読んだときの名状しがたい衝撃といったら…!! 特に「恐竜が目の前にいるような錯覚に陥る~」のくだりは、本当に何かを見たんだなと、なにやら嫉妬のようなものを感じたものでした。「あれは出回るべき名文」〈FJ氏〉「FSM聴いたことない人もグッとくるだろう。これはアンセムだ」〈スガワラ氏〉とメンバー各氏も絶賛。次回の“小川論文”も楽しみデス。よろよろ。刈谷)

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(PHOTO by YOKOSAN)